初売りで考えるやといかた

今年も初売りが始まりました。
私も応援要員として現場に立たせていただきましたが、夜明けの猛烈に寒い中から並ばれているお客様には頭が下がります。
 
そんな初売りの次に続くのはクリアランスセールです。
今年は三越伊勢丹が前年よりセール開始日を1週間前倒しすることで、各百貨店がほぼ1月4日に横並びでセールスタートとなるようです。
 
百貨店を含めた商業施設のセールは衣料品の販売不振に伴い、2000年以降、次第に前倒しされていきました。その結果、セールまで買い控えるお客様が増え、プロパーで服が売れなくなる悪循環に陥ったことから、三越伊勢丹がセール開始を後ろにした(昔に戻した)時は大きなニュースになりました。
しかしながらそんな「百貨店のあるべき理想の姿」も売上には勝てなかったようです。
 
私は商売上の視点ももちろんですが、労働環境の問題としても営業日や営業時間に関連するセールの開始時期に注目しています。
 
三越伊勢丹がセールは前倒ししても、正月の営業開始日を他社より遅い1月3日としていることは、商売としての「理想」のみならず、業界で働く方々の労働環境という面で「理想」をまだ目指してくれているのではないかと期待しています。
 
私は百貨店の人事担当として、担当店の営業日・営業時間を労働組合と協議していたことがあります。
今「働き方改革」と言われる中で、ニュースでも「36協定」という言葉を耳にすることがありますが、その協定を結ぶべく、労働時間の前提となる店舗の営業日・営業時間を協議、つまり議論していたわけです。
 
当時は売上拡大を図るには最大限営業機会を生かそうということで、営業日数や営業時間を拡大する傾向にありました。
営業日は1日減るとその分の売上が減ります。不思議なことに他の日に分散することはあまりありません。
一方で経費は営業日を1日減らしたからといってそれほど減りません。光熱費が主な削減要素になりますが、1日あたりで換算すると大きな効果には結びつかないのです。
いきおい、経営側としては売上・利益を優先するなかで営業日・営業時間を拡大していきたかったのです。
 
その前提となるのは「労働力が確保できている」ことにあります。
社員は無期雇用なので、1日営業日を増やそうが、減らそうが人件費は変わりません。人手が足りなくなる繁忙期は本社要員を店舗の応援に回すことで、労働力を確保することができたからです。
 
このような議論をする中でも、労使共通の認識としてあったのが大晦日と元日の取り扱いでした。
両日ともに生活者として、日本の伝統でもある家族で過ごす日として、売上より尊重すべき日としていました。
 
今や正月営業をする商業施設も多くなってきてはいますが、「今はなんとか労働力が確保できている」という前提で成り立っている営業形態であると思います。
今後の労働人口、働き方を考えると、必要な労働力を確保することは簡単ではなく、永続的な施策ではないように思えてなりません。
 
仮に正月営業をする店舗や企業の年間休日数が他社と比較して多かったとしても、周囲が長期休暇を取って混雑している中での労働は負担感が大きいですし、ましてや大手以外では年間休日数をしっかり確保することは営業日数が増える中では難しいでしょう。
 
こういった労働条件が販売の業界の人手不足を招いている一因であることは否定できないと思いますし、販売の業界以外でもその業界特有の労働条件が人手不足を招いていることはあると思います。
 
その業界では当たり前の労働条件が、採用という面ではハンデとなるのです。
 

もちろん必然性のある特性はあると思いますが、伝統や慣例といった必然性の薄いものもあるのではないでしょうか。
例えば「隔週土曜休」。工場のように生産量の問題から操業する必要があるのであれば合理性はありますが、「慣例」という企業もあります。
 
「この会社や業界に入りたいのであれば当たり前だ」では、よい人材は集まらず、結果会社や業界の衰退につながりかねません。
また、必然性があったとしても、中長期的な発展を考えた時に労働力確保の観点から労働条件を考えても良い時期にきているのかもしれません。
 
ぜひ、短期的な売上や利益に捉われることなく、労働環境面での理想も考えていただきたいということを、人手不足から初売りの現場に駆り出されて思ったお正月でした。