職人さんの「矜持(きょうじ)」

私の後輩にやたらと小難しい言葉をつかいたがる男がおりまして、先日もお店で見かけたとき「通路がキョーアイになっておりますのでお足元にご注意ください」とお客様に言ってました。
「キョーアイ?」お客様はきょとんとしています。
「狭隘」が正解ですが、「通路が狭くなっておりますのでご注意ください」でいいと思うんですけどね。
いつか難解語録で日めくりでも作りたい気分です。
 
なぜ、こんなことを思い出したかと言うと、先日のコラムで「矜持」という言葉を使ったから。
私は何気なく使ってしまっているのですが、もしかして正しく使っていないのではないかと思い、あらためて調べてみました。
 
「自分の能力を優れたものとして誇る気持ち。自負。プライド。」
「自分を信じてプライドに頼りながら行動する」
 
などとあります。
「プライド」という言葉に置き換えてしまうと、薄っぺらい感覚を持ちます。
「自分の意志や能力を信じる」そして「そのことに誇りを持って行動する」のが、私が使っていた感覚に近いような気がします。
 
さて、私がなぜこの言葉を何気なく使ってしまうのか。それは矜持を持って行動していると感じる方々が私の身の回りに多く、そこに対する憧れがあるからだと思います。
 
それは私が日々お付き合いしている職人さんたち。
仕事上のお付き合いもあれば、町内会など地元でのお付き合いもあります。
職種も、鳶頭を筆頭に、お神輿などの鍍金(めっき)といった伝統的な職業から、ハンドバッグや靴、そして料理人さんまで。
 
でも「職人、画像」で検索すると、白の割烹着や作務衣、作業服を着た方の画像がずらっと出てきます。ほんと、ステレオタイプですよね…
 
そんなんじゃない!格好じゃないんですよね。
出来に対しても、取り組み姿勢にしても、仕事に対するプライドが半端ないこと。
そして、出来のすばらしさや、プライドをひけらかしたりしない。
それが矜持を持った職人さんだと思います。
 
私はとくに取り組み姿勢と、ひけらかさない気概に憧れています。
 
テレビなんか絶対出ない。テレビどころかSNSで拡散されることすら良しと思っていない方もいます。
邪魔されたくないので、集中した作業は深夜にするという方もいます。
自分の仕事の良さを真に理解してくれる人に対してだけ仕事をするので、一見さんはお断り。それが数少なくても構わない、迎合はしないという人もいます。
 
今の時代、その考えは古いといわれるかもしれません。
それでも私は、古い考えの方々に寄り添いたいです。
 
それだけの気概を持てるのは、技術や、たゆまぬ努力、そして自分の仕事を通じて果たすべき目的があるからに他なりません。
また、自分の仕事だけを誇るのではなく、お付き合いしている周囲の方々に敬意を持って接し、自分を常に見つめ直すことも必要だと思います。
これらのうち、どれかが欠けても駄目だと私は思います。どんなにテクニックがあり、商売になったとしても、そのテクニックを何のために生かしていくのか、目的が正しくなければ、ただの独善的な金儲けに過ぎません。
 
努力している姿そのものは、地味すぎて見ていても格好いいものではありません。
しかしながら、目立つものだけに注目して欲しくないと思います。
 
仕事は見世物ではない、と職人さんに言われることがあります。
 
私は見世物としてではなく、素晴らしい工芸品、普段何気なく使っている製品、そして食事を美味しくいただける背景には職人の矜持があることが正しく世に広まることで、
いや広げることで、課題となっている後継者不足の解消や、地域の活性につなげていければと考えています。
 
そんなことを後輩の小難しい言葉遣いから考えました。
今度はやたら横文字を使いたがる後輩のことを思い出して何か書いてみようかと思います笑