人は材料ではない、財産である。(人材ではなく人財)

私は大手百貨店の人事部門で、採用から人事異動、昇進といった社員の方々のキャリア形成に関わってきました。
 
会社の経営方針や部門方針に基づき、適切な要員予算を配分し、人員の配置を進めることで、企業業績の向上や、個々人のキャリア形成を図っていきます。
具体的には、新規事業を立ち上げるので社内でその道に長けた人はいないか、業績が伸び悩んでいる部門に対し起爆剤となるアイデアを企画・実行できる人はいないか、ベテランがあと数年で定年退職となるので後継となる人を配置したい、といった経営側のニーズに対して、人件費予算を勘案しながら人の配置をしていく業務です。
 
経営側のニーズを縦軸とすれば、横軸は社員個々人のキャリアとなります。新入社員の時代から個性や適性を見て、将来の活躍をイメージしながら、適切なタイミングで人事異動を行います。
 
時として経営側のニーズと個人のキャリア形成が合致しないことがあります。例えば経営としては抜擢したいと考える人物に対して、人事部としては時期尚早、無理をさせれば潰れてしまうと考えるケース。逆に会社全体の活力向上のためにも、本人のステップアップのためにも異動させるべきとの人事部の考えに対し、「いなくなると困る」という理由だけで上司が異動を拒むケース。
 
そのような時、真剣さゆえに議論が白熱し、感情的になってしまう場面もあったりしました。
しかし、全員に共通していたのは人を大事に考えていたこと。業績目標達成のために使い捨てにするようなことは一切せず、よって一時的に感情的になったとしても最終的には最適な人員配置ができたと心から思えたのでした。
 
今、「人と地域をつなぐ仕事づくり」をテーマに人財紹介の分野にも関っていますが、その現場で人を大切に思っていないとしか考えられないケースを垣間見ることがあり残念でなりません。
 
直近の例ですが、2018年1月1日から職業安定法(職安法)が改定されています。そこでは求人票には固定残業代(いわゆるみなし残業)がある場合はそれを明記することが義務付けられています。そして固定残業代の内訳、計算方法などの詳細を明示すべきとされています。
 
この「義務付けられている」と「明示すべき」の違いわかりますか。罰則があるかないか、なんです。義務を果たさなければ罰則がありますが、すべきことをしなくても罰則はないんです。
 
つまり、みなし残業があることは求人票に明記しなければならないが、詳細は書かなくてもよいということになります。
企業が詳細を書きたくない気持ちもわかります。採用難の時代において、条件的に不利になる事項はできれば触れたくない。いい会社なのに、求人票を見ただけで応募されなくなることは避けたい。かといって賃金を上げる余裕はない。そんな気持ちでしょう。
 
でも、いずれはわかることです。だとしたら条件を全て伝えたうえで、企業の魅力をしっかり伝えるべきだと私は思います。
 
そのような企業に対し、「罰則はないのでみなし残業の内訳を記載するのはやめましょう。記載すると求人に不利になります。」と積極的に記載しないことを勧めている人材紹介会社があるらしい。
 
驚きを通り越して、怒りも通り越して、呆れますよね。
 
条件を全て伝えたうえで、企業の魅力をしっかり伝えるべきです。
今現在でもその条件で働いている方はいらっしゃる訳で、その方達は何かしらのよい理由があって働いている。
働いている方には気づかない魅力を引き出したり、伝える手段を持っていない企業に対し、情報提供のお手伝いをするのが人財紹介業の役割の一つではないかと私は思うのですが、そうではない人材紹介会社があるとは…
 
他にも、なかなか応募がない、採用に苦労している企業を人材紹介会社からすれば紹介手数料という売上がなかなか立たないことから「不良在庫」と言うのも耳にしました。
 
求職者の応募有無、企業の選考という障壁があるから、求人をたくさん取ればいい、求職者にたくさん応募させればいい、と言うことも人材紹介会社の業績を上げるうえではセオリーとなっています。
応募を多くすれば、いつかは不良在庫もなくなると言うことです。
 
確率が同じならば機会を増やすのは、営業のセオリーとして間違っていませんし、求職者に対して仕事を見つけるチャンスを増やすのだ、と言えばその通りです。
 
でもそこにはビジネスの視点しか存在しない、仕事を在庫、人を材料としか見ていないのではないでしょうか。まさに「人材ビジネス」です。
 
私は、求職者に対しても表面的な見方をせず、その人の中身を掘り下げていって力を引き出したいと思っています。人の中には財産が眠っています。
そして引き出した力を企業や組織に引き合わせ、力を発揮することで、財産になってもらいたいと思っています。
ですから私は「人財」という字を使います。
 
もちろん私も商売です。お金は頂戴します。でもそれは短期的な儲けとしてではなく、企業や地域、そして個人個人の困りごとを解決させていただいた時の正当な対価として頂戴したいと思っています。
 
人を材料としか思っていない企業とは仕事はしません。人に対する礼ががない方とはお付き合いしません。それが私の矜持です。